婦人科悪性疾患に関する診療の詳細 > ICGおよび蛍光カメラを用いた骨盤リンパ節郭清術施行患者に対する術後下肢リンパ浮腫の発症予測とリンパ管吻合術による浮腫の治療


当科における下肢リンパ浮腫の診断と治療

 早期子宮頸癌・子宮体癌および卵巣癌の標準手術では領域への転移の診断として骨盤リンパ節郭清術後が推奨されています。また、画像診断でリンパ節が腫大している場合や再発を疑うときにもそのリンパ節の摘出に引き続いて郭清を行うことがあります。現在のところ早期癌において、骨盤リンパ節郭清は治療としての意義よりは転移の有無を病理学的に証明する診断としての意義が強調されているため、摘出により転移が証明されるときは非常に有用な手技といえます。骨盤リンパ節郭清は現在標準的な根治手術に含まれており、現在本邦ではどの病院でも行われています。

 当院では、早期癌においては骨盤内のリンパ節摘出を「センチネルリンパ節」のみにすることで摘出リンパ節を30〜50個から2〜4個程度に減少させ、郭清術の副作用である術後の足・外陰部のむくみ(リンパ浮腫)等の発症頻度を減少させることができると考えていますが、「センチネルリンパ節」に転移がある場合や「センチネルリンパ節」自体が同定できないときは骨盤リンパ節郭清を施行する必要があるため、その様な患者さんにはリンパ浮腫等の発症の可能性を回避することができません。また卵巣癌では「センチネルリンパ節」の理論が確立していないために通常の骨盤リンパ節郭清術が必要です。
 骨盤リンパ節郭清を行うと、一定の頻度(30%前後)で術後腟断端部よりのリンパ液漏出およびそれへの感染、下肢・外陰部の浮腫、骨盤内リンパ嚢胞の感染によるリンパ膿瘍や皮下組織の感染による蜂窩織炎が起こり治療に難渋することがあります。このような症状の一部は術後数年後に出現することもあり長期的な観察が必要になります(下図参照)。

 当科では骨盤リンパ節郭清術を受けた全ての患者さんに対して、入院中リンパ浮腫療法士(LT)の資格を持つ担当看護師が介入し術後のケアを開始しています。術後リンパ浮腫が出現した場合、軽度であれば観察するか弾性ストッキングの着用や担当看護師が行うリンパドレナージ術(マッサージ、専門外来で施行)によりその進行を防ぎます。しかしながら、これらの治療介入を行ってもリンパ浮腫が進行してしまったり、それまで何ともなかったのに一定期間後に突然リンパ浮腫が発症したりすることもあります。上記の対応以外にリンパ浮腫が進行していれば外科的な治療が必要な場合も出てきますが、今まではリンパ浮腫の状態を適切に把握する方法が限られていたため、どのタイミングで手術介入に切り替えるべきか判断が難しい現状がありました。
 そのため2015年4月より当科では「ICG蛍光色素を用いた下肢リンパ浮腫の診断」の臨床試験を始めることとなりました。これはセンチネルリンパ節生検あるいは骨盤リンパ節郭清術を受けた患者さんの足先にごく少量のICG蛍光色素を注射してICGカメラで観察することで下肢〜大腿のリンパの流れの状態をリアルタイムに観察する方法です。特段の副作用はありません。これにより皮膚表面のリンパ管の逆流状態(正常では線状に、鬱滞し弁機能が消失すると点状に見える)などが明らかになってきます(下図)。

この方法で弾性ストッキングやドレナージの有用性の判定や手術介入の可否の決定とともに、リンパ浮腫がどの段階から不可逆的になっていくのか、センチネルリンパ節生検でリンパ浮腫が起こらないかどうかを臨床試験として施行しています。本臨床試験では、当科にてセンチネルリンパ節生検あるいは骨盤リンパ節郭清術を施行した患者さんを対象に、術後3ヶ月程度を目安に施行しており対象の患者さんでは検査の費用は無料です。初回検査で線状に見えて浮腫がない場合も引き続き観察していきますが、何らかの臨床症状が出た場合はもちろん、無症状でも本検査で異常所見が出た場合は担当看護師が行う専門外来でのリンパ浮腫予防への介入あるいは時期をおいた再検査も考慮します。また、異常所見の強さが一定のレベルに達した場合は、弾性ストッキングの着用やリンパドレナージ術では対処できないため、当院形成外科にてリンパ管毛管吻合術(LVA、保険適用あり)を考慮します。これにより浮腫が劇的に改善する場合もあるので、形成外科医と一緒に術後経過を見ていきます。本臨床試験は当面のところ専門外来の人数に制限が有り、対象は当院で手術施行した患者さんに限定しています(以下まとめ)。

 ・ 臨床試験であり検査に対する患者さんの費用負担はない
 ・ 本検査で異常所見が出た場合は再検査あるいは専門家による介入開始
 ・ 介入方法として弾性ストッキング、リンパドレナージ、手術療法がある