婦人科悪性疾患に関する診療の詳細 > 子宮頸がん・体がんに対するセンチネルリンパ節生検と術中転移陰性の場合のリンパ節郭清の省略


子宮頸がん・子宮体がんセンチネルリンパ節生検の意義

 「センチネルリンパ節」とは、腫瘍部分とそれにつながるリンパ管を通してがん細胞が「リンパ節転移」として到達する最初のリンパ節と定義されています。各リンパ節は互いに連結していると考えられるためがん転移が起こる場合は、まず最初のリンパ節である「センチネルリンパ節」に転移してその後次々に転移が広がるため、
1:「センチネルリンパ節「に転移があればそのほかのリンパ節に、腫瘍の転移が認められる可能性がある
2:逆に言うと「センチネルリンパ節」に転移が認められない場合は他のリンパ節に転移している可能性が低いと考えられています。(下図は子宮頸がんでの例で、がん近傍のリンパ管内にがんが浸潤移動し、「センチネルネルリンパ節」に到達している状況)。

がんのリンパ節転移とはどういう意味を持つ現象でしょうか?
子宮頸癌・子宮体がんでは癌が原発巣である子宮に存在するために、原発巣を除去する目的で子宮を摘出します。癌そのものが除去されるので治療的意義があります。一方、骨盤リンパ節郭清術は、原発巣を超えてがんが広がるリンパ節という「領域」へのがん転移の有無を確認するための「検査」になります。もし癌が転移していないときは摘出そのものの意義はないことになりますが、転移していた場合、仮にそのリンパ節を摘出したとしても後の再発の最大の要因の一つ(再発高リスク)と考えられており、仮に手術で転移リンパ節が摘出されたとしても、通常放射線・抗がん剤などの追加治療が考慮されます。従って、転移があった場合は意義があるといえますが、現状では術前に正確に転移がある、あるいは転移がないということが判断できないので骨盤リンパ節全体を可及的に摘出する骨盤リンパ節郭清術を施行してリンパ節への転移の有無を判定しています。一方で、リンパ節郭清術が施行されれば、副作用である術中の神経損傷や血管損傷、術後の足・外陰部のむくみ(リンパ浮腫)、骨盤部リンパ嚢胞・膿瘍などが患者さんの30%程度に発症するとされています。このような合併症は骨盤リンパ節摘出をより完全に目指すほど高頻度に起こる不可避な合併症です。
 現状では郭清より的確なリンパ節転移診断方法がないこと、および再発してしまってからの治療は早期での治療に比較し困難になることから、早期がんである場合でも特段の理由がない限り診断的意義を持つ「骨盤リンパ節郭清術」が考慮されています。臨床的にはリンパ節転移以外の再発リスクの判定も含めた追加治療の決定により、実際の再発は低頻度に押さえられ再発予防効果を上げています。
 しかし、そもそもこのような早期がんの患者さんの85%前後にはもともと転移がなく、また腫瘍径が小さくなればなるほど転移の可能性はより低下することも知られており、結果からみるとそのような患者さんに限って言えばリンパ節郭清の必要はなく、郭清により一定の頻度で合併症が出るのであれば必ずしも有用とはいえません。問題はそれぞれの患者さんがその85%の中に入っているのかどうかが、一定の根拠を持って的確に示せないということにあります。「センチネルリンパ節生検」は一定の根拠を持って転移の有無を的確に示すために開発された新たな検査・診断法です。「センチネルリンパ節生検」は欧米では盛んに行われており、婦人科領域でも米国NCCN癌診療ガイドラインにおいて子宮頸癌・子宮体がんともに薬剤の投与方法や判断基準が明記されています。本邦でもどのようにしてセンチネルリンパ節を同定するかということ、同定された場合は転移を正しく評価できるのかがポイントとなります(安全性についてはすでに保険適応となっている乳がんでの使用薬剤の基準に従っており、これまでにも特段の問題は生じていません)。
 「センチネルリンパ節」への転移仮説はどんながんにでも当てはまるというわけではないため、現在まで様々ながんで研究が行われてきました。その結果、外陰がんをはじめ陰茎がん、悪性黒色腫などの比較的まれながんのほかに、乳がん、大腸がん、胃がんなどのがんでその仮説が成立することが報告されてきました(乳がんでは現在センチネルリンパ節生検が健康保険の適用となっています)。現在では子宮頸がん、子宮体がんは高い診断精度が得られているがんの一つとして認識されています。
当科科長前任地で「子宮頸がんIb期までの手術治療対象患者に対する「センチネルリンパ節生検」の臨床研究を行ない、以下の結果を報告し(産婦人科治療, 92, 458-464,2006, International Journal of Gynecological Cancer , 19, 1113- 1117, 2009)、良好な結果を得たことから、Ib期までの子宮頸がんのリンパ節転移状況を知る有効な診断法として当院でも診療体制を構築しパイロット研究を行ったところ前施設での結果と同様に有用性が確認できたため、当院倫理委員会の承認を得て子宮頸がんでは2010年から、子宮体がんでは2014年から「センチネルリンパ節生検」を開始しました。2018年3月までに早期癌100症例以上に施行しており、郭清省略の同意の得られた70例以上の患者さんは、転移陰性の場合郭清を省略した結果、省略された側のリンパ浮腫発症率は0%でした(通常の同定率は90〜95%程度、両側が同定されるのは80%程度)。またこれまでの結果では郭清省略しても残存リンパ節のがん再発も0例と非常に良好な経過でした。従って、診断精度はリンパ節郭清術と同等以上かつ郭清術に伴う合併症が回避される可能性が高くなるといえます。現在、日本婦人科腫瘍学会でセンチネルリンパ節生検導入のための準備作業が行われており今後本邦での標準治療化が期待されますが、2018年4月より臨床研究施行についての規則の変更がなされたため、非常に良好な成績ではありましたが、当科でのセンチネルリンパ節生検はいったん終了とし、新規則に適合させる準備を行っています。


<これまでの当科におけるセンチネルリンパ節生検の方法について>

 「センチネルリンパ節生検」では、通常入院日当日の午後にRI室で子宮腟部にトレーサーといわれるリンパ節・リンパ管同定用薬剤を投与しRIシンチグラムでセンチネルリンパ節の部位を同定します(下図左部分)。翌日手術当日にも異なる2種類のトレーサーを用いて多角的に同定し、通常3個前後の「センチネルリンパ節」を同定し・摘出し、術中迅速病理診断を行います(下図右部分)

 「センチネルリンパ節生検」は、第一の目標として術中に転移のないことを確認して郭清を省略し合併症を回避することを目的とした検査法ですが、先進的な検査方法のため日本ではまだ施行施設も少なく「センチネルリンパ節生検」は現時点では子宮頸がん、体がんの診断治療において標準治療にはなっていません。そのため術前の充分な説明においても不安の残る方には「センチネルリンパ節」を同定摘出した後に通常の骨盤リンパ節郭清術を行っています(この場合3個程度ではなく通常〜60個程度のリンパ節摘出となる)。また、術中迅速診断で転移陽性の場合はその側の骨盤リンパ節郭清を施行し、「センチネルリンパ節」が同定できなかった場合(通常の同定率は90〜95%程度、両側が同定されるのは80%程度)も同様に同定されなかった側の骨盤リンパ節郭清術を行っています。
 通常のリンパ節転移診断法では1つの切片上に転移あるかどうかで転移診断しているため、その切片上に転移がない場合転移陰性となり早期がんとなりますが、もし他の切片には転移があった場合実際には進行がん(リンパ節転移陽性)であり、追加治療が考慮される進行期となります。しかし通常検査法で同定できなかった場合追加治療の機会が失われるため、「転移陰性の早期癌」の判断なのに再発してしまう可能性が示唆されています。最近の報告では、「センチネルリンパ節」を同定・摘出することで、術後にこのリンパ節を従来以上に詳細に病理学的に検討し(一切片ではなく多数の切片を作成し診断する)、これまでの通常診断法では見逃されていた転移を同定できる、「ウルトラステージング」と称する診断法の報告もなされ、従来法よりも3倍の高頻度で転移の同定がなされると報告されています。当院では術後のウルトラステージングを施行しており(当科では転移の半数以上がウルトラステージングでのみ見つかる微細ながん細胞の転移です)、その診断で転移陽性の場合、追加治療が可能となるため患者さんと相談してこれを施行しています。

*現在新たな臨床研究規則に合わせるため、一度終了して再施行準備中です。