婦人科悪性疾患に関する診療の詳細 > 子宮頸がん・体がんに対するセンチネルリンパ節生検と術中転移陰性の場合のリンパ節郭清の省略


子宮頸がん・子宮体がんセンチネルリンパ節生検の意義

 「センチネルリンパ節」とは、腫瘍部分とそれにつながるリンパ管を通してがん細胞が「リンパ節転移」として到達する最初のリンパ節と定義されています。各リンパ節は互いに連結していると考えられるためがん転移が起こる場合は、まず最初のリンパ節である「センチネルリンパ節」に転移してその後次々に転移が広がる、逆にいうと最初のリンパ節である「センチネルリンパ節」に転移がない場合は他のリンパ節には転移がおこっていないと考えられています。(下図は子宮頸がんでの例で、がん近傍のリンパ管内にがんが浸潤移動し、「センチネルネルリンパ節」に到達している状況)。

 早期子宮頸がん・体がんにおいても、がんの骨盤リンパ節への転移は再発の最大の要因の一つ(再発高リスク)と考えられており、仮に手術で転移リンパ節が摘出されたとしても、通常放射線・抗がん剤などの追加治療が考慮されます。骨盤リンパ節郭清術は、「原発巣である子宮」という臓器を摘出することとは異なる、原発巣を超えてがんが広がる「領域」へのがん転移の有無を確認するための「検査」としての手術になり、転移が確認されるならば有用な手術法といえます(再発時にも再発したリンパ節の摘出は有用なことが多い)。早期がんである場合でも、特段の理由がない限り初回手術として診断的意義を持つ「骨盤リンパ節郭清術」が考慮されていますが、実際には早期がんとしての頸がん・体がんでの骨盤リンパ節転移の頻度は最大15%程度前後で、85%程度の患者さんには転移がないと考えられています。腫瘍径が小さくなればなるほど転移の可能性はより低下することも知られており、早期であればあるほど多くの患者さんにとって、結果から見た限りではリンパ節転移がないのであればリンパ節郭清しなくても病理学的には同じと言うことになります(実際に体がんでは筋層浸潤のない低リスクの場合、骨盤リンパ節郭清自体が完全に省略される場合もある)。そのうえそのような患者さんであっても郭清となった場合は、副作用である術中の神経損傷や血管損傷、術後の足・外陰部のむくみ(リンパ浮腫)、骨盤部リンパ嚢胞・膿瘍などが患者さんの30%程度に発症するとされています。このような合併症は骨盤リンパ節摘出をより完全に目指すほど高頻度に起こる不可避な合併症です。
 転移のないリンパ節は本来摘出する必要はないのですが、転移がないことを科学的に完全に証明することは現在でも事実上困難となっており、実際には転移がなかったことは治療後一定期間再発がないという統計的な結果で判断されています。証明が困難な理由をいくつか提示します。

  1.  骨盤リンパ節が合計何個あるか実際には不明(数個~60個程度、個人差ある)
     このため全部摘出できているかの確認が術中にはできない(残存の可能性)
  2.  そのために可及的(できるだけ)な摘出となるが、残存に転移あれば再発する
     (これを防ぐためにリンパ節転移以外にリスクがあれば追加治療を考慮)
  3.  通常の病理診断ではたくさんのリンパ節を摘出しても病理学的にはそれぞれのリンパ節につき、1つの切片を作りそこに転移あるかどうかで転移診断
     (20個取れば20切片での判断で他の部分に転移がある可能性は残る)

 以上のように術後のある瞬間にリンパ節転移の有無の正確な診断を決定することは上記が明らかでないため確率論となってしまいますが、臨床的には骨盤リンパ節を郭清することは転移のないことの判断としては有用とされており、リンパ節転移以外の再発リスクの判定による追加治療の決定により、実際の再発は低頻度に押さえられ再発予防効果を上げています。
 しかし一方では、そもそもこのような早期がんの患者さんの85%前後にはもともと転移がないので、結果からみるとそのような患者さんに限って言えばリンパ節郭清の必要はなく有用とはいえません。今までは術中に転移の有無を一定の正確性を持って判断できる技術が確立しておらず、可及的郭清と術後の病理診断以外の判定方法がなかったのですが、もし術中に一定の正確性を持って転移があるかないか判断できれば転移の無い場合、郭清を省略して合併症を回避することが可能となりますが、そのために開発された検査・診断法が「センチネルリンパ節生検」です。 
 「センチネルリンパ節」への転移仮説はどんながんにでも当てはまるというわけではないため、現在まで様々ながんで研究が行われてきました。その結果、外陰がんをはじめ陰茎がん、悪性黒色腫などの比較的まれながんのほかに、乳がん、大腸がん、胃がんなどのがんでその仮説が成立することが報告されてきました。子宮頸がん、体がんの高い診断精度が得られているがんの一つとして認識されています。
 当科科長前任地で「子宮頸がんIb期までの手術治療対象患者に対する「センチネルリンパ節生検」の臨床研究を行ない、以下の結果を報告しています。(産婦人科治療, 92, 458-464,2006, International Journal of Gynecological Cancer , 19, 1113- 1117, 2009)

・ 50例の子宮頸がん患者さんにご協力をいただき臨床検討を行った。
・ Ib期までの38症例ではその同定率は95%であったが、より進行したII期では67%と同定率は低下した。
・ 同定できた「センチネルリンパ節」の平均個数は3個であり、これを摘出すればリンパ節の転移の状態についての診断可能であった。
・ 転移見逃し(偽陰性)を防ぐため、当初は全例追加郭清をおこない平均27個の追加骨盤リンパ節を検査したが、センチネル陰性ではそのほかのリンパ節に転移はなく偽陰性率0%、陰性的中率100%であった。

以上からIb期までの子宮頸がんのリンパ節転移状況を知る有効な診断法として当院でも診療体制を構築しパイロット研究を行いましたが、前施設での結果と同様に有用性が確認できたため、当院倫理委員会の承認を得て臨床検査として子宮頸がんでは2010年から、子宮体がんでは2014年から「センチネルリンパ節生検」を開始しています。2015年現在120症例以上に施行しています。
 また患者さんと同意のある場合、術中迅速病理診断により転移陰性の診断がなされた場合以後のリンパ節郭清を省略しています。現在まで「センチネルリンパ節生検」のみで終了した場合リンパ浮腫が発症した症例はなく、これにより上記の合併症が回避される可能性が高くなります。


<当科におけるセンチネルリンパ節生検の実際>

 「センチネルリンパ節生検」では、通常入院日当日の午後にRI室で子宮腟部にトレーサーといわれるリンパ節・リンパ管同定用薬剤を投与しRIシンチグラムでセンチネルリンパ節の部位を同定します(下図左部分)。翌日手術当日にも異なる2種類のトレーサーを用いて多角的に同定し、通常3個前後の「センチネルリンパ節」を同定し・摘出します(下図右部分)

「センチネルリンパ節生検」は、第一の目標として術中に転移のないことを確認して郭清を省略し合併症を回避することを目的とした検査法ですが、先進的な検査方法のため日本ではまだ施行施設も少なく「センチネルリンパ節生検」は現時点では子宮頸がん、体がんの診断治療において標準治療にはなっていません。そのため術前の充分な説明においても不安の残る方には「センチネルリンパ節」を同定摘出した後に通常の骨盤リンパ節郭清術を行っています(この場合3個程度ではなく通常30〜50個程度のリンパ節摘出となる)。また、術中迅速診断で転移陽性の場合や、「センチネルリンパ節」が同定できなかった場合(通常の同定率は90〜95%程度、両側が同定されるのは80%程度)も同様に通常の骨盤リンパ節郭清術を行っています。
 通常のリンパ節転移診断法では1つの切片上に転移あるかどうかで転移診断しているため、その切片上に転移がない場合転移陰性となり早期がんとなりますが、もし他の切片には転移があった場合実際には進行がん(リンパ節転移陽性)であり、追加治療が考慮される進行期となります。しかし通常検査法で同定できなかった場合追加治療の機会が失われるため、「転移陰性の早期癌」の判断なのに再発してしまう可能性が示唆されています。最近の報告では、「センチネルリンパ節」を同定・摘出することで、術後にこのリンパ節を従来以上に詳細に病理学的に検討し(一切片ではなく多数の切片を作成し診断する)、これまでの通常診断法では見逃されていた転移を同定できる、「ウルトラステージング」と称する診断法の報告もなされ、従来法よりも3倍の高頻度で転移の同定がなされると報告されています。当院では術後のウルトラステージングを施行しておりその診断で転移陽性の場合、追加治療が可能となるため患者さんと相談してこれを施行しています。詳細は担当医とご相談ください。(以下まとめ)


  1.  「センチネルリンパ節生検」は根治手術可能な早期での子宮頸がん・子宮体がんの患者さんで、原則として術前画像検査にて明らかな骨盤リンパ節転移が否定的な方を検査対象としています。
  2.  当検査は当院では現在臨床検試験として行われているため、検査料は病院負担としており患者さんの費用負担はありません。この検査では特段の副傷害は起こりません。術中迅速病理診断で転移陽性の場合や「センチネルリンパ節」が同定されない場合は通常の骨盤リンパ節郭清術を行います。
  3.  本検査は腹腔鏡下手術あるいは開腹手術のどちらでも行うことが出来ます。
    腹腔鏡下手術の場合、現時点では根治性を担保した最低侵襲手術となります。